99%の宝石が加工処理されている?天然の宝石をさらに美しくするための「トリートメント」の歴史
宝石ってそもそも美しいから「宝石」だよね?
そう思っているアナタ、確かにそうとも言えますが、女性同様、宝石も「おめかし」をしているのをご存知ですか?
宝石の「おめかし」のことを専門用語で「エンハンスメント」や「トリートメント」と言います。これは宝石の色を美しくする「加工処理」のこと。
実は、市場に流通している宝石のほとんどが、「オイル処理」や「含浸」を始めとした様々な加工処理をされているのです。
残念ですが、「すっぴん」で勝負している宝石はごくわずか。。。
今回は、そんなエンハンスメントやトリートメントといった宝石の加工処理の歴史についてご紹介します。
エンハンスメントとトリートメント
日本の宝石業界は、平成6年の6月1日から平成16年の8月31日の間、鑑別書にこのような記載をしていました。
たとえば「天然ルビー」の文字の下にこのような1文があったとします。
①「天然ルビーには一般にエンハンスメントが行われています。」
②「色素による着色を認む」
これは①の場合は宝石の「改良」で、②の場合は「改変」という処理を施していますよ、という意味です。
エンハンスメントは「宝石が潜在的に有している個々の差異を調整して価値を改善する試み」で、トリートメントは「宝石に潜在していないものを後から付け加えて加工したもの」で、この場合、②はトリートメントということになります。
ややこしいですが、とてもざっくり簡単に言うと、エンハンスメントは「お化粧」、トリートメントは「整形」のようなものだと覚えておくといいかも知れません。
宝石の加工処理の歴史

・1820年代ごろ
この頃の宝石の加工処理には、塗装やコーティング、着色といったごく単純な加工の技術が用いられていました。
鉱物(宝石)の色を変化させるのではなく、石の見た目を良くすることが目的だったため、石や台座の表面に色を塗ったり、オパールやトルコ石など多孔質の鉱物を染色することが盛んでした。
この年代はとりわけドイツのイーダー・オーバーシュタインのアゲート(めのう)の染色の素晴らしさが話題となりました。
・1833年
この年は現代の宝石の加工処理の第一歩を踏み出した年です。ブラジルでアメシスト(紫水晶)を250度以上で加熱したら、なんと色が変わってシトリン(黄水晶)に変化したのです。
このことから宝石を加熱する加工処理の技術が一気に進みます。多くの職人が研究を重ね、500度前後の加熱でグリーンベリルがアクアマリンに、金色のインペリアルトパーズがピンクトパーズに変化することがわかりました。
これはいわゆる「熱処理」という加工です。地球のマグマの温度の変化で宝石の色が変わるのは自然のなりゆき。そう考えるとこの加工処理はエンハンスメントに当たりますよね。
・1960年代
昔からルビーやサファイアの加熱処理は行われていましたが、1960年代はじめにタイで黒っぽいルビーを1900度前後で高温加熱すると、透明度の高いルビーができることが発見されました。
この高温加熱処理は、現在出回っているほとんどのルビー、サファイアに行われています。
・1970年代
ルビーやサファイアの表面拡散処理のほか、この年代になると放射線による加工処理が始まりました。
この放射線処理をした宝石は、無色のトパーズがブルートパーズに、無色のベリルがイエローに、トルマリンをピンクや赤に、スポジュミンをピンクに変えるなど、多彩な発色が可能になりました。
これは加熱ではなく、鑑別書には「照射されたもの」と記載されるようになり、この頃から宝石の加工技術が多岐にわたり行われるようになりました。
・2001年以降
21世紀に入ると、サファイア(コランダム)にベリリウム拡散処理をすると、美しいピンクやオレンジのサファイアができるようになり、サファイアの市場が混乱するようになりました。
美しすぎる「おめかし」は、「天然」という宝石の存在を脅かすようになったのです。
そしてこれらの技術の革新はダイヤモンドの加工にも及び、HPHTと呼ばれる高温高圧処理によって処理されたカラーダイヤモンドができるようになりました。
現在市場に多く出回っているブルーのダイヤモンドはこの加工をされたもので、処理石として値段も安価に扱われています。
最後に
いかがでしたか。
宝石の色を美しく加工する技術は、単純なものからハイテクなものまで実に様々です。
ここで気をつけて欲しいことは、
加熱高温で加熱されて色が改良された宝石は、その後色が変わることはありませんが、オイル処理や含浸、ワックス加工などをされた宝石は、洗浄の仕方や使い方によって色が変わってしまうこともあるということ。
天然の宝石には間違いありませんが、加工処理によって「おめかし」が剥がれやすい宝石もあるのです。宝石の扱いには、くれぐれも注意してくださいね。
リカラット編集部 監修