宝石の産地特定はとても困難|GIA鑑定士に聞いた産地証明の限界

「この宝石の産地はどこですか」

リカラットへの質問で意外に多いのがこの質問です。

宝石は決してお安くないお買い物。できればどこで生まれたのか、身元を知りたい気持ちはよくわかります。

しかし!実は宝石の産地を特定するのはとっても大変。あのGIAですら産地がわかる宝石はたったの6種類しかないとか。。。

今回はGIA鑑定士に聞いた、宝石の産地を特定する方法とその限界についてご紹介します。

宝石の産地にまつわる誤解

日本のスーパーにいくと「魚沼産コシヒカリ!」「下仁田ネギ!」「下関のふぐ!」といった様に産地を謳っている商品が並んでいます。

つまり産地を言えるということが、ある種のクオリティの証明となっているのですね。

たしかに野菜や魚の場合、産地や生産者を追うことは可能です。

なぜならその魚などがとれたのが「最近」で、多くの場合記録が残っているからです。

しかし、もしこれが100年前に取れた魚だったらどうでしょう? 正確な記録を追うのは、ちょっと厳しそうに思えますよね。

宝石の場合100年どころではなく、数千年、数億年前にこの世に産まれているものなので、その「産地」を調べるのは恐ろしく大変な作業です。

もちろんそんな古代の記録なんて残っていませんし、数億年前というとヘタをすると地球の大陸の形が今と異なるような時代。

現代の人間の尺度で「産地」を表現することが、そもそもナンセンスである場合も多いのです。

有名どころでいうと例えばサファイア。

その昔、大陸が1つだった時代には、今のスリランカとマダガスカルとは隣接していました。

両方ともサファイアの有名な産地ですが、そんな時代にこの地域で産まれたサファイアなら、色も成分も確かにとっても似通るはずですよね。

つまり現代ではインドの隣にあるスリランカと、アフリカの隣にあるマダガスカルとは遠く離れていますが、その2つの地域から全く同じ成分のサファイアが採掘されたとしてもおかしくない訳です。

宝石の産地を特定するには

それでも・・・という前置きつきで、

「宝石の産地を特定するには、一応、石のインクルージョンや構成成分の ”割合の傾向” を分析するという方法があります。」

そう教えてくれたのは、宝石鑑定士のAさん。

「まず先程も申し上げたように単純に成分だけを見ても石の産地は分かりません。」

「ましてや色だけでの産地特定は不可能です。同じ日本人でも色白の人と色黒の人がいるように、産地によっての ”傾向” はあるのですが、1つ1つの石の産地を特定するには材料不足です。」

「一方その ”傾向” を突き詰めて、何千、何万というサンプルのデータを集め、インクルージョンや成分の ”割合” を統計的に特定できるようになった宝石はあります。でも6種類しかないです。

その6種類とは下記の石たち。

  • ルビー
  • サファイア
  • エメラルド
  • パライバトルマリン
  • レッドスピネル
  • アレキサンドライト

(編集部注:2019年2月よりGIAがアレキサンドライトの産地分析を追加したので本ブログに追記しました)

高い宝石ばかりですが、でもなぜこの6種類なのでしょう?

宝石の産地特定のために産地直送でデータを貯める

産地の証明が非常に困難ということは、逆に言えば産地の偽装は非常に簡単ということです。

ただでさえ長い時間をかけて世界中の業者を通じて売買される宝石たち。いつどこでどの国に渡って今この手元に辿り着いたのかなんて誰にも分かりません。

つまり「カシミール産」だと言われて世に売られている石は、そもそも信頼ができないので「カシミール産」のサンプルデータとしては使えないということです。

このため例えばGIAは実際に現地の鉱山にレポーターを置き、本当にそこで採掘したものをそのまま産地直送で持って来て、自前でサンプルデータを蓄積しています。

この様に多大なコストがかかっているため、全ての宝石について同様の検査を行うことはできません。

特に半貴石と呼ばれる石は値段もそれほど高くないのでここまでのコストを掛けられませんし、採掘できる国も多いので全ての地域にレポーターを派遣することもできません。

つまり純粋に、それらの石の産地を特定するのは不可能です。

さらに、上記の6つの宝石であっても、産地による宝石の成分の ”割合” の違いは極めて微細なので、その計測ができる機械自体がとても高額(1台数千万円レベル)です。

実際、日本の鑑別機関でこの装置を保持している会社はほとんどなく、宝石の産地分析が出せるのはGIA、Gubelin Gem Lab、SSEFなど、世界トップレベルの宝石鑑別機関だけです。

しかしこれらの鑑別機関に頼んだとしても、100%全ての石の産地が分かるわけではありません。

あくまでサンプルデータは成分の統計的な “傾向” を見ているだけなので、「外れ値」には対応できないからです。

世界レベルで活躍しているスポーツ選手に「日本人離れした」という表現を使うことがありますよね。石の世界でも同じことが起きるのです。

そういう石の場合は、たとえGIAでも分かりませんと返されるだけなのです。

最後に

「この宝石の産地はどこですか」

つい、そう聞きたくなる気持ちは分かります。

実際、世界の鑑別機関の人々が同じような疑問を持ち、長年をかけて特定する手法を編み出して来たのがこの業界です。

でも、そのような大きな手間ひまを積み上げてハッキリ分かったことは

宝石の産地を特定するのはとても難しい

という万全たる事実でした。

たしかにミネラルショーとかですと「XXXX産のサファイアだよ!」などと産地をアピールしているお店がよくありますが、

そんな光景を見たら、遠い数億年前の地球に思いを馳せながら、

「本当かな〜」

と話半分で聞いてみるのが良さそうです。

リカラット編集部 監修